レビュー|色彩が導く、分断なき世界の「コネクト」
パトリック・レイモンド、著名な建築・デザインスタジオatelier oïの共同創設者が、SPREADのMilan Design Week 2026の展示について語ります。
景色や海を眺めるように「色」を眺め、人と人がつながる世界
クリエイティブユニット「SPREAD」による新作『Colored Boundary』を目の当たりにしたとき、私の心に真っ先に浮かんだのは、彼らの色彩に対する極めて純粋なアプローチです。
SPREADは、喜びや幸福感を呼び起こす「色そのもの」を提示することを目指しています。彼らの狙いは、究極的には「物」という実体を超えて「色」そのものを体感してもらうことにあります。色彩は感情をダイレクトに揺さぶり、言葉を超えて人と人をコネクトする力を持っているからです。私自身も、色は音楽のように「非物質的(immaterial)」な存在であるべきだという彼らの思想に深く共鳴します。
本作において、その非物質性を支えているのがTransparent(透明性)という要素です。色のドレープが重なり合う多層的なメッシュ素材は、光を透過させ、向こう側の景色を遮ることなく取り込みます。そこには「あるようでない」「ないようである」という境界の曖昧さが立ち現れ、私たちが無意識に引いている境界線(Boundary)の脆さと、その先に広がる可能性を問いかけてくるのです。
「境界」から「フロンティア」へ
興味深いことに、英語の「Boundary」は、私の母国語であるフランス語では「Frontier(フロンティエール)」と訳されます。この言葉には単なる仕切りという意味だけでなく、まだ見ぬ「開拓すべき新しい領域=フロンティア」という響きが含まれています。
社会が定義する国境、あるいは自己と他者を隔てる心理的な壁。私たちはそれらを不透明で強固な壁として捉えがちですが、本来、境界とはもっとTransparent(透過的)で、向こう側を感じ取れるものであるべきではないでしょうか。この作品は、固定観念という名の不透明な幕を軽やかに取り払い、境界を「分断」ではなく、新しい出会いとコネクトが始まる「フロンティア」として想起させてくれるのです。
共鳴する思想とプリミティブな感覚
私がSPREADのクリエイティビティに深く共鳴するのは、境界を柔軟に、そして透過的に捉えることで得られる「新しい価値観」への強い意志を共有しているからです。
絶え間ない紛争や対立が続く現在の世界において、その根源にあるのは「物理的な移動と実感の欠如」ではないかと感じています。自分の足で歩き、直接目で見て、生の音を聴き、肌で風を感じる。そうした「プリミティブな行動」を通じて、世界と直接コネクトしていくプロセスが、現代の日常生活では圧倒的に不足しています。他者と同じ空間を共有し、五感を通じて共感し合うこと。その積み重ねの先にこそ、私たちが切望する平和の萌芽があると信じてやみません。
変容する世界のなかで
長期的な視点に立てば、物理的な「国境」そのものが意味を失う時代が来るかもしれません。気候変動という地球規模の危機を前に、国家の基盤となる「土地」の在り方そのものが揺らいいでいるからです。
ミラノ・ALCOVAの緑豊かな屋外スペースで展開される『Colored Boundary』は、境界がある世界、ない世界、そして私たちがこれから創り出すべき「新しい境界の在り方」、言うなれば世界平和を静かに問いかけます。このインスタレーションは、単なる静的な展示物ではなく、鑑賞する人間と対話し、自然の移り変わりと深い共生関係にある「生きた有機体(living organism)」なのです。ひとつの生命体として人間と自然との相互作用や融合を促し、人々や多様な文化、そしてあらゆる生命に対する深い敬意を育んでいくことでしょう。色彩が混じり合い、透明な層(Transparent layers)が幾重にも重なって空間に浮遊するこの作品は、私たちがよりしなやかに、より寛容に、世界とコネクトしていくための「道標(みちしるべ)」となる気がしてなりません。
— パトリック・レイモンド(atelier oï)
ミラノデザインウィーク2026におけるSPREADの展示について、ぜひご覧ください:
Colored Boundaries at Alcova
Colored Symphonies at OBR











































































































