猪熊弦一郎「Form ― 形」春会期レポート
2025年7月19日(土)まで、 高松市にある「四国村ミウゼアム」にてSPREADがキュレーションとデザインを手掛ける特別展「猪熊弦一郎 Form, People, Living 身の回りにある、秘密と美しさ」の春会期「Form ― 形」が好評のうちに開催されています。
本展は、2025年に開催される瀬戸内国際芸術祭に連動した3会期連続展の第一弾として企画されました。キービジュアルは割れた石がモチーフで、石の断面に隠れていた美しさを発見するイメージであり、タイトル「身の回りにある、秘密と美しさ」を表しています。
展示は以下の4つのテーマで構成され、それぞれの視点から猪熊の「形」への探求を深掘りしています。
1. 形の変容
猪熊は、物の表層のみを正確に再現するのではなく、その本質を捉えようと、日々デッサンを描いていました。 例えばバイオリンのように、それ以上変えようがないようなフォルムを美しいと感じつつ、対象そのものを根本から理解することが重要だとしていました。 そもそも「形」とは何なのか?ここでは「Form ー 形」を象徴する作品をご紹介しています。
2. 形たちの調和
猪熊の創作理念として知られる「コンフュージョン・アンド・オーダー(混乱と秩序)」という考え方。 散らかった空間に一脚の椅子をまっすぐ置くだけで印象が変わるように、混乱に秩序を与えることでバランスが整い、新たな美が生まれるという考え方です。 様々なタイプの「形」たちの絶妙な調和をご覧いただき、猪熊が追い求めた理想のバランスに触れることができます。
3. 形たちのスケッチとコレクション
創作だけでなく日常においても、猪熊は物に対して深い愛情を注いでいました。アトリエには、道ばたで拾った物やアーティストによるオブジェ、レアなコレクターズアイテムなどが並び、創作意欲を刺激する存在となっていました。本セクションでは、それら「可愛い友であり宝物」の一部と、スケッチを紹介します。
4. スケジュール
「花嫁のスケジュール」など、 タイトルに「スケジュール」という文字が入った作品を特集。シンプルな ○と△と□をベースに構成されており、 一見シンプルな図形ほど、それらをバランスよく組み合わせることや1枚の絵として成立させることの難しさに気づかされる作品群です。猪熊がどんなことを、どんな「形」で表現したのかを想像しながらご覧ください。
本展では、SPREADによる2点のインスタレーション作品も展覧会を立体的に体験できる要素として大きな反響を呼びました。
・形に出会う
いのくま作品に対する理解を、より深い体験へと拡張するきっかけ(気づきのトリガー)となるインスタレーションです。春会期のモチーフは「石」 。香川県高松市の採石場に足を運んで、 またとない形を選び抜きました。特殊な活版印刷によって唯一無二のグラデーションを印刷し、手でちぎった紙の断片を集積した作品「Much Peace, Love and Joy」との融合を試みました。
・形の誕生
展示終盤には、来場者自身が色選び、自らの「形」を創造する参加型のインスタレーションを設置しました。「花嫁のスケジュール」にヒントを得た体験型展示となっています。
ギャラリートークレポート
6月14日には、四国村ギャラリーにてギャラリートークが実施されました。
屋外スペースに設営されたテント下での主賓挨拶に続き、ギャラリー内を巡回する形式で行われたトークは、猪熊作品への深い理解と愛情が大変好評で、「批評的な展示とは異なる猪熊さんへの愛を感じた」とのお声をいただきました。
本展は引き続き、2025年の夏・秋会期へと続きます。
今後の展開にもぜひご注目ください。