
上野駅と猪熊弦一郎の《自由》
MIMOCA(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)
2026年3月1日(日)–6月28日(日)

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)で開催された企画展『上野駅と猪熊弦一郎の《自由》』のアートディレクションおよびデザインに加え、展示内容の企画協力や、色彩分析に関する展示物の提供などを行いました。

本展の大きな見どころのひとつが、SPREADによるJR上野駅のためのカラーパレット「Ueno Freedom Color」の制作プロセス展示です。
私たちは上野駅の大壁画《自由》から採集した色彩をもとに、現代的な感覚で再構成した40色のカラーパレットを制作しました。
壁画を離れた位置から見た際の色の見え方や、修復時に足場から間近で採取した色、壁画内における色面積の比率など、多角的な分析を通して壁画の色彩を整理し、その特徴や構造を読み解きながら、現代の環境に応答する40色のカラーパレットへと再構成していく過程の資料が30点以上公開されました。



壁画に描かれた色彩をどのように読み解き、新しい色の体系として再構成していくのか。その思考や制作のプロセスを詳細にご覧いただける機会となりました。

JR上野駅構内では、実際にこの「Ueno Freedom Color」が看板や施設の内装デザインに用いられ、駅全体の調和を図る計画が進められています。

本展では、2026年1月に完了した壁画《自由》の3度目の修復作業に関する資料や記録写真も多数展示し、作業工程や細部にわたる修復の内容を見ることができ、普段目にすることのない、壁画の保存と修復の裏側を知ることのできる、見応えのある展示となりました。

大きな展示室の壁の一面は、実際の壁画と同じ幅約27メートル、高さ約5メートルのサイズで青一色に塗装し、巨大な色面が空間に立ち現れる圧倒的なスケールを体感できる構成としました。その向かい側には、同じく実寸大で再現された壁画の輪郭の中に、修復中の細部を写した実物大の写真が並び、27メートルにおよぶ巨大な壁画のスケールを感じる一方で、その表面に対して極めて細やかな修復作業が積み重ねられていることを間近に感じることができました。


さらに、開口部の先に見える壁面には、カラーパレット制作時の色彩分析の過程で生まれた絵の一部を抽象化した図案を、壁画と同じ配置で展開。壁画の構造や色彩がどのようにカラーパレットへと展開されていくのかを、空間全体で体感できる展示構成となっていました。

床面には線路をモチーフにした図柄が点在し、上野駅という場所性を想起させながら展示空間を案内。
足元の線路を辿るように進んだ先で、視界いっぱいに広がる巨大な青い壁面を見上げることで、《自由》のスケールをより強く感じられる構成でした。

〈参加者とともに完成させた27メートルの壁画〉
本展では、3回にわたるワークショップを通して、参加者とともに27メートルの壁画が制作されました。

4月に行われた『27メートルの壁にいろんな青をぬる』では、壁画《自由》の実寸大で再現された巨大な青い壁面に、参加者それぞれがさまざまな青を塗り重ねました。
小さな子どもから大人まで、多くの参加者が夢中になって壁と向き合い、普段なかなか体験することのできない「大きな壁に色を塗る」という行為を楽しみました。
「青にもこんなにたくさんの違いがあることに驚いた」「重なって生まれる新しい青が面白かった」といった声も聞かれ、色の奥行きや変化を体感する機会となりました。

5月に開催された『27メートルの壁でいのくまさんの線をなぞる』では、投影された原画の線を参加者が実際に壁へ描き写しました。
参加者からは、「絵の世界に没頭できた」「観ている時よりも、線一本一本に温かみを感じた」「巨大な壁画を描く貴重な体験になった」といった感想が寄せられました。
実際に身体を動かしながら線をなぞることで、猪熊弦一郎の描線のリズムや息づかいを体感するワークショップとなりました。

そして6月には、SPREADが講師を務める『27メートルの壁にフリーダムカラーをぬる』を開催しました。

これまで2回のワークショップでつくりあげられてきた27メートルの壁画を、20名の参加者とともに2日間をかけて完成させました。
参加者は自身の経験や記憶を振り返るワークからスタートし、そこから生まれた線を手がかりにモチーフを選びました。さらに、猪熊弦一郎の作品や壁画《自由》の線に触れながら、形や色について考えを深めました。


その後、「Ueno Freedom Color」の40色と向き合い、それぞれの色から言葉を導き出し、その言葉を起点に色を選択。選んだモチーフをそれぞれの色で塗りながら、27メートルの壁画を完成させていきました。

単に色を塗るだけのプログラムではなく、色やモチーフを選ぶまでのプロセスを通して過去の自分と向き合い、色が感情を喚起する体験を実感できるワークショップとなりました。
参加者からは、「色選びやモチーフとの出会いなど、多様なプロセスを通してものづくりや生き方のヒントを得られた」などといった感想が寄せられました。

4月に塗り重ねられた青、5月に描かれた線、そして6月に加えられた40色。参加者とともにつくりあげられた27メートルの壁画は、会期を通して積み重ねられてきた取り組みの集大成として会場に展示されました。
会期終了後には展示室の改修に伴い姿を消したため、この壁画を見ることができたのは会期中限りでした。参加者一人ひとりの記憶や経験、色の選択が重なり合って生まれた、二度と再現することのできない特別な壁画でした。


上野駅と猪熊弦一郎の《自由》
会期:2026年3月1日(日) – 2026年6月28日(日)
会場:MIMOCA 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
主催:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、公益財団法人ミモカ美術振興財団、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
協力:東日本旅客鉄道株式会社、SPREAD、有限会社修復研究所二十一
展覧会、JR東日本 上野駅 写真 撮影:木奥惠三